「良く眠れる布団が欲しいんです」
「良く眠れる布団ですか・・・」
曖昧な要望に私は困ってしまう。
良く眠れる布団とは何だ・・
良く眠れる布団はどれかなと
店内を見渡し、女性の方に視線を向けると
目が合ってしまう。
女性はどうですか?と頭を横に傾け聞いてくる。
「そうですね・・良く眠れる布団ですか」
また同じセリフを言って、
店内を見渡そうとすると、
女性が店の中央に置かれているベッドの
方に歩き出す。
「これなんか良く眠れそう」
女性はベッドに敷かれている布団を手に取ると
埃が少し舞い、咳をする。
「す・・すいません、お客さんが
全然来ないものですから・・
その埃がちょっと溜まっていまして」
「うふふふ、何か情緒があって素敵ですわ」
女性は笑顔で掛け布団を鼻のところまで
持っていき、いつから敷かれているか
わからない布団の匂いを嗅ぐ。
最近じゃこういうのが流行りなのかなと
訝しがりながらも、久しぶりのお客、
それも若くて可愛らしい女性というから
舞い上がってしまう。
「どうぞ!良かったら寝てみてください!」
私は言った瞬間に後悔した。
いくら本人が情緒的と言っても埃がかぶった布団に
今時の女性大学生風の女性が寝るはずないと。
それに閑散とした商店街にある寂れた布団屋で
店内はうらびれた主人の私だけである。
変に警戒され、困らさせてしまったと
下を俯いていると、
女性は楽しそうに靴を脱ぎ、ベットの中に潜り込んでいる。
私は驚きを隠すように、問いかける。
「あ・・あのどうでしょう?」
女性の寝るベッドの側まで寄ると、
布団から頭をちょこんと出し、
唇を突き出しう~んと布団の感触を
味わっている。
そんな仕草に私は恋をした中学生のように
鼓動が早くなってしまった。
「うん、これいいかもぉ」
「それは、それは」
私はこの布団を買ってくれるのかなと
何かとか緊張を悟られないように、
笑顔で待っているが、
女性は一向に布団から出てこない。
女性の方を見つめると、
じっと私を見つめてくる。
「あの~?」と私はこの妙な雰囲気から逃れる為に
話しかける。
「はい?」
女性はまるで喫茶店にいてお茶を飲んでいるかのように
リラックスして、私の問いかけにも
友人と会話するように聞き返してくる。
お客が布団を買いに来た。
そして今良い布団か確かめる為に
布団で寝ている。
頭で整理すれば、理解できるが、
目の前に楽しそうに布団で寝ている状況を
間の当たりにすると、いまいちこの環境に馴染めない。
私がじっと見ても、
ニコっと微笑み返すだけで、
女性は布団から出てこない。
目のやり場を無く、
しょうがないので店内に目を泳がしていると、
女性は目を閉じ、
すやすやと気持ちよさそうに眠り出す。
私は呆然と彼女を見やるも、
起こす気にもなれず、
先ほど座っていた椅子に腰をかけ、
一旦頭の中をリセットする為に、
静止画のような外の風景を見つめる。
これは何かのイタズラなのか・・
ふと頭によぎるが、一体何の為に
こんなイタズラするのか。
私はそんな事を考えていると、
彼女の睡眠が伝染したのか、
私までいつの間にか
睡魔に襲われ、眠りについてしまう、
何時間寝てしまったのか、
外は真っ暗になり、
店内も真っ暗になっている。
私はあの女性はどうしたのだろうと、
慌てて立ち上がり、
店内に電気を灯すと、
先ほど寝ていたベッドには
女性がいなくなっている。
あれは夢だったのかと
思っていると、布団の上に
メモ用紙が一枚置かれている。
それを手にとり見ると、
「気持ちよさそうに寝ていらっしゃったので、
このまま失礼させてもらいます。
この布団も良いですが、違う布団も試したいので、
また来ますので、よろしくお願いします。」
と書かれていた。
夢じゃなかったのか。
私はメモをズボンのポケットに入れ、
二階に住む母の元へと向かう。
続く
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