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お婆ちゃんは僕の手をギュっと
強く握りしめてくる
僕はびっくりして、両親や叔母に
助けを求めるように見つめるも
誰も歳三という男性の事を知らないのだ
そして、お母さんがお婆ちゃんに
「歳三さんって誰?」
と聞くと、お婆ちゃんの目に
光が戻り、そして・・
「あら。マキじゃないか
いつの間に帰ってきたんだ?」
ってお母さんの事を思い出したんだ
それに
「あれ?マコに、雅史さんもいる
みんないつの間に集まったんだい?」
とお婆ちゃんは皆の事を思い出したんだ
僕らは本当に嬉しくなって、
皆お婆ちゃんに話しかけてた
でも。。
お婆ちゃんは僕の方を見つめ、
「歳三さんがまさか会いに来てくれるとはなー」
って嬉しそうに言うんだ・・
そう、両親や叔母の事はすっかり思い出したけど
僕の事は歳三という知らない男性だと
思い込んでしまっているんだ
皆戸惑いつつも、
お婆ちゃんが目に見えて
しっかりしてきたのを素直に喜んだ
でも一体歳三さんって誰なんだろう?
お爺ちゃんの名前じゃないし、
お爺ちゃんと出会う前に付きだった人なのかな?
そうか・・そうだよな
お婆ちゃんにも青春時代があったんだ
僕は庭に置かれた椅子に座り
枯れた池を見つめながらお婆ちゃんの
青春時代を思い描いていたんだ
お婆ちゃんは今まで
どんな恋愛をしてきたのだろう
いくら考えても、
まったく想像ができない
だってお婆ちゃんは、
僕が子供の時からお婆ちゃんだったんだもん
僕は考えるのやめ
椅子から立ち上がると
この池に無性に水を張りたくなったんだ
そう、昔みたいに
鯉は無理だけど、
せめて水だけでも入れてあげたい
僕は庭に置かれたホースを手に取り、
蛇口を開け、そして池に水を注いでいったんだ
そして、半分程溜まった頃
「歳三さああああん」
とお婆ちゃんが後ろから声をかけてきたんだ
僕はびっくりして、後ろを振り向くと
お婆ちゃんが立っている
真っ赤な口紅をし、厚化粧をしたお婆ちゃん
「お婆ちゃん・・・どっどうしたの・・?」
「やだぁ~歳三さん、お婆ちゃんなんて呼ばないで
タエって呼んで。ほら歳三さんの為に
化粧してきたのよおおお」
お婆ちゃんはまるでゾンビのように
ゆらゆらと老体を揺らしながら近づいてくるんだ
続く
親戚の叔母に付き添われて
お婆ちゃんが出てきた
大好きだったお婆ちゃん
夏休みになると毎年田舎にある
お婆ちゃんの家に遊びに行くのが楽しみだった
でも、今目の前にいるのは
僕の事もわからなくなったお婆ちゃん
痴呆が進み、孫である
僕の事も誰だかわからない様子
そんな姿に僕はとてつもなく悲しくなる
両親も同じ気持なのか、
悲しそうな顔をしながらも
「お母さん元気だった?」
と母は精一杯の笑顔で話かける
「えっと・・・雅子さんかな?」
「いいえ、お母さんの娘のマキですよ
お母さんわかる?」
母は、お婆ちゃんの肩に優しく手にかけて
話しかけるも
「おーそうだったかー
まぁお入りよー」
涙を流す母に、母の姉の叔母は
「毎日面倒見ている私の事も
わからない時があるのよ
しょうがないわよね
お母さん年だもん・・・」
と諦めたような笑みを浮かべる
僕は逃げ出したい気持ちになりながら
お婆ちゃんの家に入ると
あぁ、戻ってきたんだ
って懐かしい気持ちになってくる
平屋で土壁の昔ながらの一軒家
僕は小学生のころを懐かしむように
家の中を歩き、そして庭に出る
小学生の頃には
池には水がはり、鯉が泳いでいたけど
今は誰も世話する人がなくなり、
水の張らない渇いた池
僕は枯れた池を見つめていると
いつの間にか隣に父が立っていた
「昔はよく池の中に入って
遊んでいたな」
「うん」
「お婆ちゃん、まだ足腰はしっかりして
元気なようで良かったな」
「うん」
僕は父は枯れた池を見つめながら
佇んでいると叔母が
「麦茶入ったわよ-」
と声をかけてくる
僕は父と一緒に居間に行くと
既にお婆ちゃんと母と叔母が待っている
僕は座布団の上に座り、
母と叔母の話に耳を傾けながら
氷の入った冷えた麦茶を飲むと
お婆ちゃんは僕の顔を
じっと見つめてくる
僕もお婆ちゃんをじっと見つめる
僕が子供の時から皺々だった
大好きなお婆ちゃん
お婆ちゃん、僕の事を思い出して
僕は念ずるようにお婆ちゃんを見つめていると
「と・・としぞうさん・・・
歳三さんじゃあああ」
お婆ちゃんは突然、大きな声を出し
身を乗り出して、コップを持っている
僕の手を握りしめてくる
「お婆ちゃん・・?
ぼ・・・僕は雅史だよ
お婆ちゃんの孫だよ・・」
「歳三さんじゃああああああああ」
続く