バスから降りた時には、もう長旅から帰ってきたような
疲労感で体が重くなっていた。
そして、さらにここから車で一時間というから
うんざりして口を開く元気もない。
元々この旅行はあまり乗り気でなかった。
テニスサークルの後輩の渚に半ば強引に
誘われて、断りきれずについてきてしまった。
サークル内でも特に仲が良い訳でもないのに、
夏休みが始まる前に急に私に近づいてきて、
妙に慕ってくるようになった。
最初は急にどうしたんだろうと、
不思議に思っていたが、
遥先輩、遥先輩とどこ行くにもついてきて、
当然ながら悪い気もせず、
いつの間にか気を許していた。
「遥先輩~こっちですよー」
随分田舎に来たもんだと、
疲れた体を一切動かさず、
首だけを動かして、木に囲まれた風景を見ていた。
「もうこっちですよー」
渚が指差す方向を見やると、
一台のワゴン車が止まっている。
「遥先輩、行きますよー」
地面に置いたボストンバッグを担ぎ、
重い足取りで渚の後をついていく。
車に近づくと、若い男性が降りてくる。
「お兄ちゃーん」
「おう、渚迎えにきてやったぞ」
私はペコリと頭を下げ、
よそいきの笑顔を作って、
渚の兄に挨拶をする。
「遥さんですね。
渚から聞いています。
いつも妹がお世話になっています。
あ、そうそう自分は、高雄と言います。」
ガッシリとした体つきで
イケメンという訳ではないが、
都会にはいない好青年という雰囲気で
好感が持てた。
高雄は遥の荷物を持ってくれて、
車に積み込んでくれた。
渚はそそくさと先に助手席に乗り込んでいて、
自然と後部座席に座る形になった。
「どうぞ長旅でお疲れでしょう。
着いたら、起こしますので、
寝ていてください」
高雄の言葉に甘えて、
目を閉じると渚に誘われた日の事を思い出す。
「遥先輩、一緒に旅行に行きませんか?」
私は戸惑った事を覚えている。
いつの間にかいつもいっしょにいるようになったけど、
まだ旅行行く程仲良くはないんじゃないかと。
しかし、渚の話を聞くと、
興味を持ってしまった。
渚の生まれ故郷で今年四年に一度のお祭りがある。
その故郷というのも結構田舎で、
人口100人前後の集落でちょっと変わったお祭りだという。
しかし、お祭りの内容は決して教えてくれなかった。
先輩をびっくりさせたいから言いませんよーと
毎回はぐらかされてしまう。
じゃあ別にいいわという態度をとると、
教えないという癖にしつこく誘ってくる。
私はうっとおしいと思いながらも
次第にそのお祭りを見たいという気持ちが芽生え
断りきれずに、
結局今こうして車の中にいる。
そろそろ眠れそうだなぁと
呼吸をゆっくりとして、
眠りにつこうとすると、
車がガタガタと揺れだす。
眼を開けると、
いつ間にか舗装された道路から外れていて、
獣道のように林に囲まれた、
土の道を走っている。
「すいません、起こしちゃいましたか?
ちょっと落ちていた木の枝を踏んだっぽいです。
都会の人にはこういう道珍しいでしょ」
高雄が運転しながら話しかけてくる。
「そうですねー。
今じゃほとんど舗装された道ばっかりですから」
「そうですよねー」
私は疲れていながらも、
変に目が冴えてしまい、
眠る事も出来ずに、
林に囲まれ、代わり映えのしない風景を見る。
続く
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