妹はまるでゴキブリを見るような目で
見つめてくる。
「何歳なのよそのホステスって」
こんな早朝に何で妹に怒られなければならないのか。
「知らないよ・・・」
「知らないって、あんた騙されているだけじゃないの」
「でも閉経してるって言ってたから
結構年かかも・・・」
「閉経・・?」
妹は奇妙な生き物を見る目つきになる。
「うん、後子供もいるって言ってた・・」
「馬鹿なの?」
妹は顔を真っ赤にしている。
「なんでだよ・・」
「閉経したババアの子持ちのホステスと
付き合ってるってでしょ。」
「そうだよ・・悪いかよ」
妹は今にも泣き出しそうな顔して、
リビングから飛び出し、大声で両親を呼びに行く。
「お父さああああん、お母さああああん、
糞兄貴が大変になったことになったよおおおおおおお」
両親も慌てて起きてきて、
妹と一緒に寝ぼけ眼でリビングに降りてくる。
目鼻立ちがすっきりする父と、
いつも眠たそうな眼で、
ポデっとした顔つきながら、
優しい雰囲気の母。
そして両親の良いところを受け継いだ妹と
悪いところだけ受け継いでブサイクに生まれた自分。
皆が朝焼けが綺麗な早朝に、
リビングに勢ぞろい。
そんなに私は悪い事をしているのか・・・
酔いが抜けきらない頭で思考を巡らすも
答えはでてこない。
「一体どうしたんだ」
父は妹と私を見つめ尋ねる。
「彼女できたんだ。」
「ほんとぉ。やったじゃない」
無邪気に母は喜んでくれる。
「問題は相手なのよおおおお。
この糞兄貴の恋人だって言う人は
閉経したおばさんのホステスで子持ちっだって
この馬鹿が言ってるのよ」
妹は涙を流して訴える。
私はこの時、妹に初めて愛を感じた。
妹はこんなに私を心配してくれるのか。
私は嬉しくて微笑むと、
妹に一喝される。
「何ニヤニヤしてんのよ。
頭完璧におかしくなっちゃったよおおおお」
父は驚きながらも平生を保っている。
「本当なのか?」
「うん」
「どこで知り合ったんだ。」
「今日スナックでバイトすることになって・・・
それで・・その女性と付き合う事になったんだ」
「でも・・お母さんよりも年上の女性なんでしょ」
母は狼狽えて聞いてくる。
「そんな事わかんないよ。」
「だって・・私でもまだ・・閉経・・・して・・」
「おいおい、お母さんそんな事言わないでいいんだよ」
「そ・・そうね・・」
母は頬を赤らめる。
「どうするのよおおおお」
「まぁ・・そうだなぁ・・
おい、その人の事本当に好きなんだな?」
父は真剣な目つきで聞いてくる。
「うん、好きだ」
「なら仕方じゃないか。
周りが言っても好きになったもんは
しょうがないよ」
「だって・・糞兄貴がこれ異常気持ち悪くなったら
嫌だよおおお」
滅茶苦茶な言い分だなと苦笑してしまう。
「もういいだろ、俺は寝るぞ」
皆を置いて、自分の部屋に戻る。
リビングからは妹が必死に
何かを叫んでいるのが聞こえるが、
ベッドに横たわると睡魔に襲われ、
お風呂にも入らず眠りについてしまう。
何時間眠ってしまったのだろうか。
起きると既に外は薄暗くなっている。
一瞬また早朝なのかと思ったが、
時計を見ると17時を回っている。
さっそく起きて、お風呂に入ってから
スナックにバイトに行こうと
下に降りていくと、
妹が仁王立ちで立っている。
「スナックのバイト辞めさせてもらったから」
「へ?」
「あんたの携帯見て、電話しといてあげたから。」
「な・・なんでだよおおお。
み・・美由紀さんはああああああ」
「それも全部断っといたから。」
「何勝手な事してんだよおおおおおおおおお」
「うるさい、これで全部良かったのよ。
あんたももうちょっとしっかりしなさいよ」
妹はそれだけ言うと、
すれ違うように階段にあがり、
自分の部屋に行ってしまう。
私は急いで、自分の部屋に戻り、
携帯を見ると、
お昼頃にスナックに電話した発信履歴がある。
何てことを・・してくれたんだ・・・
本当なら今電話して、
釈明する事が出来たはずなのに、
私はそのまま携帯を床に置いてしまった。
そして一回置いてしまったら、
もう電話かける気がどこかに消えてしまった。
美由紀さんともう一生会えないかもしれない・・・
悲しいけどどこかでホッとしている自分もいた。
これは当たり前の事かもしれない。。
閉経した子持ちのホステスと
まともに付き合えるとは思ってない事は
どこか頭でわかっていた。
でも昨日美由紀さんを愛して、
僕の童貞を捧げた事は決して間違っていない。
私の短いバイト生活、そして短い彼女。
グッバイ私の童貞。
おわり
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