人生で初めての彼女が出来た。
今でもたまに会う小学校からの友人達には、
お前は絶対彼女が出来ない。
二十の誕生日の日に俺らが金を出し合うから
ソープランドに行って童貞捨てろと言われてていた自分が、
二十を迎える一週間前に人生初の彼女が出来た。
友人達の言うように、
自分も彼女が作れるとは夢にも思わなかった。
ブサイクで、その上髭が濃く、
朝剃っても昼前には顎当たりが青くなってくる。
そして女性の前に行くと全く会話が弾まないし、
何を話せば良いのか思いつくない。
大学に入学しても、
まわりは浮かれた雰囲気なのに、
私だけ一人ポツンの一人ぼっち。
当然ながらサークルにも勧誘されず、
淡々と決してテレビドラマでは描かれない
暗くひとりぼっちの大学生活を送っていた。
たまの気晴らしは、
ソープランドを奢ってやると言ってくれる友人達と
会う事ぐらい。
その友達も以前は「お前小学校の時はあんなに明るかったのに、
何でそんな根暗キャラになったんだよ」と
訝しげに訪ねてきて、憂鬱になった時もある。
しかし、今では完全に根暗キャラとネタキャラかしてて
彼らと会い、お酒を飲みに行くのは楽しい一時である。
そんな私が、大学にもいまいち馴染めず、
家では妹に煙たがられ(まるで思春期の父親に対する態度を
私に向けてくるのである。そして、妹は父親とは仲が良い。)
、家にずっといると妹がうるさいので、
バイトをして時間を潰そうと考えたのである。
しかしバイトも面接を受けるが全て落とされてしまう。
面接の時にも目を見て話せず、
下を向いてボソボソと話してしまうからだろうと
わかっているが、治せない。
一回本気で目を見て人と話せるように
なろうとして、頑張った時があるのだが、
それに集中するあまり、
全く会話が頭に入ってこなく、
まともに返答も出来ずに、
痴呆のように相手に思われてしまって
完全に封印してしまった。
バイト面接に明け暮れるも
尽く落とされ肩を落としての帰り道、
商店街を歩いていると、
壁に貼られているチラシが目につく。
「ウエイター募集」
私はチラシの頭上を眺めると、
「スナック林檎」を看板が出ている。
私は最初の時間潰す為に、
何か軽いアルバイトでもしようかなという心境から
アルバイトすらまともに合格しないのかとい
社会不適合者になのかという不安な心境に
変わっていて、藁をもすがる気持ちで、
扉をノックした。
「すいません、あのぉ、表のウエイター募集見たんですけど・・」
私は伏し目がちに声を出す。
「あらーあんたウエイターしたいの?
若さそうだけど何歳?」
割腹の良い母親よりも年上の女性がカウンターから
顔を出してきた。
「19歳です・・」
「あー未成年だめよー」
「あ、でも二週間後には二十になります。」
私はポケットから財布を取り出し、
学生証を見せる。
「あらー大学生かい、
こんなところでウエイターしようって変わってるねー。」
女性は学生証を手にとり、
珍しそうに見ている。
「本当に再来週で二十なんだねー。
じゃあ二十までは見習いって事で
給料はちょっと少なくなるけどいいかい?」
面接もなく、いきなり採用されてしまったので、
私は驚きました。
「あのー面接的な事は良いでんすか?
あのーちょっと人見知りで自信ないんですけどぉ」
「ガアハハハ、可愛い坊やだね。
大丈夫だよ。ウエイターの仕事は、
酒を運んだり、片付けたり、
ちょっと力仕事もしてもらうかもしれないけど、
基本雑用だから。
目立ちすぎる子よりも、あんたぐらいのが良いんだよ。」
「そ・・そうですか」
「そうそう。
あとは、私がこのスナックのママで
愛子って名前なんだけど、
愛子ママって呼んでね。」
「はい、わかりました。」
「じゃあさっそく今日から働くかい?」
「は・・はい」
まさか今日から働けるとは思っていなかったが、
どうせ早く帰宅しても妹に煙たがられるので、
働く事にした。
じゃぁこれに着替えてと渡された古びれたタキシード。
私はトイレにそれを持って、着替えようとすると
愛子ママに呼び止められる。
「あんた年頃の娘じゃないんだから、
トイレで着替えるとかしないで、
ここでちゃっちゃと着替えちゃいなさいよ」
「は・・はぃ」
私はTシャツとジーパンを脱いで、
パンツ一丁になって、タキシードを着ようとすると、
後ろでチャリンと鳴りながら扉が開いた。
「おはようー愛子ママー、あれーパンツ一丁で
この坊や何しての?」
「今日からウエイターに入ったんだよ。
こっち美由紀ね。ほらあんたも挨拶しなさい」
私はパンツ一丁でタキシードを持ったまま、
美由紀という女性に頭を下げて挨拶する。
美由紀は40代前後だろうが、
自分の母よりも弱冠若い気がする。
そんな事を考えながら古ぼけたタキシードに着替えをすます。
「開店まであと一時間ぐらいあるから、
まぁちょっとゆっくりしてなよ」
私は少し緊張もほぐれ、
立ったまま店内を見渡す。
見事に場末のスナックといった感じで、
店内はカウンターとテーブル席が三席あり、
こじんまりとした空間。
ここで本当にちゃんと働けるのだろうかと
不安に思いながらも、気を引き締める。
ここが駄目なら、もうどこ行っても駄目だ。
背筋をピンと伸ばし、やる気に燃えている私を
愛子ママと美由紀が不思議そうに見つめている。
続く
- 関連記事
-
テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト