「今日から一緒に働く事になりました新人のチエミさんです。」
「よろしくお願いします!」
諸先輩たちにチエミは深々と頭を下げる。
婦長は頬に手を立ち並ぶ看護師を一瞥する。
「じゃあ遙さんにチエミさんの指導を頼むわ。」
優しそうな笑顔を浮かべ、
チエミに笑いかける。
チエミは優しそうな人で良かったと胸を撫で下ろす。
そして婦長は看護師たちに支持を与え、
部屋から出て行く。
私はどうしたら良いんだろうと、
遙の方に目をやると、
「ついてきて」と部屋から連れ出される。
どこに行くのだろうと、キョロキョロしながら
歩いていると、日の当たらない暗い廊下に突き当たる。
「あんた私に迷惑かけるような事をしたら許さないからね!」
振り向きざまにチエミに忠告する遙の目は、
先ほどの優しい目とは違い、
ヒステリックな表情をしている。
「何で私がこの忙しいのに、
新人の面倒もみなきゃいけないのよ。
あんたチエミって言うんだっけ?」
驚きのあまり声が小さくなってしまう。
「はいぃ」
「チエミ!話す時はもっとハッキリシャキシャキ話しなさいよ。
そういう声だと患者を不安がらせる事になるんだよ。」
「はい!」
チエミは大きな声で返事する。
厳しそうな人だけど・・・・
そんなに悪い人じゃなそうかも・・・
前を歩く遙の後ろ姿は頼りがいのある先輩に見えてきた。
そして遙は病室の前で立ち止まる。
中に入るのかなぁとドキドキしていると、
振り返り、耳元で囁いてくる。
「ここはあんたも知っているように
セレブご用達の病院だからね。
どんな要求されても無下に断ったら駄目だよ。
わかった?」
「はい!」
「声が大きいよバカ」
チエミをキっと睨みつけると、
ドアを開ける。
「吉本さんおはようございますぅ」
遙は、笑顔を取り戻し、
にこやかに病室で寝ている40代の男性に話しかける。
「吉本さ~ん、朝ですよー」
「もうちょっと寝かせてよぉお」
吉本という中年の男は、まるで子供のように
布団を持って自分の頭まですっぽりと隠れてしまう。
「また夜ふかししたんですかー。
規則正しい生活した方が早く治りますよー。」
「病院のが気楽で、ずっと入院しときいよ」
「もう、そんな事言わないでー。
ほら今日は新人のチエミさんを連れてきたんですよー」
遙の声に布団に隠れていた吉本は顔出し、
遙の後ろに立っているチエミを品定めするように
チエミを見つめる。
「チエミちゃんこっちおいでー」
戸惑う表情していると、
遙がキツイ目で睨んでくる。
「チエミちゃんおいでよー」
チエミは新人ながらのおどおどした動きで
近づく。
「はじめまして吉本です。」
吉本は手を伸ばし、チエミの手を握る。
「いいねー。新人の子ってー。
初々しくてたまらないよー。
ねーチエミちゃんおはようのキスしてよー」
「え?」
驚きのあまり、吉本の言う事が理解出来ずに
聞き直してしまう。
「キスー。おじさんにおはようにキッスしてー。
そしたら起きるよー。」
何かの冗談かと思っていると、
遙がチエミの背中を押す。
「本当ですかー。チエミさんがキスしたら
起きてくれるんですねー。」
「そりゃ頑張って起きちゃうよ!」
「じゃぁ、チエミ!吉本さんにキスしてあげなさい!」
背中を押されながらも、
状況が掴めず、遙の方に顔を向ける。
「どうしたのぉ?
頬でいいからキスしてあげなさい!」
チエミは小声で遙にだけ聞こえるように
囁く。
「本当ですかぁ?」
遙は強く頷く。
吉本も当然キスしてくれるんだろうという表情で
チエミを見つめてくるので、
拒否して、逃げ出す勇気もなく、
吉村の脂ぎった頬に致し方がなく軽くキスをする。
「良かったですねー吉本さん。
ほら起きてくださーい。」
「えー頬にキスなの?
口同士がいいよー。」
駄々っ子のように吉本はブーたれる。
「もう新人なんだから、
そんなに虐めないでくださいよー。
次回からいなくなっちゃいますよー。」
「それは困る。」
吉本はベッドから起き上がり、
袖を捲り、腕を出す。
「はい、じゃあちょっとだけチクっとしますからねー」
遙は手際良く腕に注射をして、
血を抜き取る。
「はい、終わりです。」
脱脂綿を注射痕の上に押さえつける。
「それじゃ朝食持ってきますのでー」
遙の後に続き、チエミも部屋から出る。
「先輩?」
廊下に出るとすぐさま前を歩く遙に話しかける。
「なによ」
「さっきの・・あれはぁ・・?」
「キスの事?」
「そうです・・」
「ここはそういう病院なのよ」
「でもそれじゃ・・・」
遙は立ち止まり、振り返る。
「嫌なら、すぐ辞めればいいわよ。
伊達に新人にも他の病院の倍以上の給料だしている訳じゃないのよ。
あんた結構可愛い顔しているから、
これからも、もっと色々要求されるわよ。
嫌なら辞めな。」
「先輩も色々してるんですかぁ?」
遙の口からため息が漏れる。
「そうよ、その代わり同年代の大企業に務める男たちよりも、
全然給料は貰ってるわ。
あんたは好きな方選びなさい。
ここ辞めて看護師という激務に見合わない給料を貰うか、
ちょっとHな事を要求されながらも、
高給を貰うか。」
「はぃぃ」
チエミは俯く。
「まぁいいわよ。
最初は私が上手く交わしてあげるから、
それでも無理なら辞めればいいよ。
さぁ、行くよ。
ここで無駄口叩いる暇は無いんだよ。」
不安な思いを抱え、遙の後についていく。。
続く。
- 関連記事
-
テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト